今月の特集は「京のおばんざい 〜カンタン家呑み風〜」。
「夏のカンタン家呑みレシピ」特集で好評を博した京都在住の料理家・高谷亜由先生に、「京のおばんざい」のカンタン家呑み風レシピをご紹介いただきます。
どの料理も、お酒をこよなく愛する高谷先生ならではのアレンジが効いたお酒にぴったりなレシピです。ぜひご家庭で気軽にお試しください!!
古くから伝わる京都の家庭料理「おばんざい」についてのあれこれを、
高谷亜由先生に教えていただきました。
料理家、ベトナム&タイ料理講師。
京都で「料理教室Nam Bo」を定期的に開催するかたわら、大阪、東京、鎌倉などでも料理活動を行う。家呑みはライフワーク。
著書:「終電ごはん」(幻冬舎、共著)、「レシピ家で呑む。」(アノニマ・スタジオ)、「ひとり暮らしの野菜ごはん」(アスペクト)。
京料理というと懐石のように華やかなイメージがありますが、京都人がそんな食事をいつもしているわけではもちろんありません。
地野菜やお豆腐、乾物や漬物などを中心に何品か、毎日飽きずに食べられる味付けでササッと作る、それが京都のおばんざいです。
商家などで伝えられきた伝統的なおばんざいには、家計をやりくりする知恵として、安くて栄養のある食材を使い、毎月決まった日に願いをこめて食べるものがあります。たとえば月初めには「にしんこぶ」。これには「今月も渋う、こぶう(渋って、節約して)暮らしましょう」。末広がりの八がつく日には「あらめとお揚げの炊いたん」を食べ、「商売に芽が出ますように」。「おから」は包丁で切らずに調理できることから京都では「きらず」と呼ばれ、財布が空(から)になる月末に、「お客さんが切れず、たくさん入る(炒る)ように」と願って食べます。
おばんざいは「始末する」心がけが大事、「ちゃんと始末しいや」とよく言われます。始末には節約の意味合いがありますが、たとえば安価な食材を無駄なくおいしく使いきる、しっかりダシをきかせて少ない食材でもご馳走にする…、そういうことではないかとも思います。
近頃では、おばんざいをカジュアルに楽しめる割烹やレストランも増えてきました。
そして、たとえ京都に暮らしていても、昔ながらのおばんざいを毎日作る人はいまや少数派です。私も同じく、フレンチやイタリアン、エスニックなどおいしい料理は色々食べたいし、友人たちと飲む日にはパパッと作れるおつまみも必要。仕事柄、台所には淡口しょうゆやみそばかりでなく、ナンプラーやごま油などの外国調味料も欠かせません。
商店街やスーパーで旬を感じ、この町の食材をうちの台所で料理する。京都らしくもどこか異国の香りがする、それが私のおばんざいでしょうか。
京都には、京野菜をはじめ季節ごとの食材や、行事ごとに決まっている食習慣があります。料理屋さんほど細やかにはできませんが、旬のものを食べる楽しみは大事にしたいところ。
おばんざいには「出会いもん」という言葉がありますが、これは相性のいい旬食材をとりあわせ、ふたつの素材が出会うことでお互い一層おいしくなる、という考え方です。安価な旬食材と常備できる乾物などの組み合わせは、ふだんのおかずならではの知恵だと思います。
春の出会いもんは若竹煮。4〜5月になると、スーパーにもみずみずしい朝採りたけのこが並びます。おだしをきかせて薄味に炊きあげ、香り良い木の芽をあしらうのが定番。
私がいつも作る春のおつまみは、ふきみそ。サッとゆでたふきのとうをごま油で炒め、みそやみりんで炒りつけた常備菜。ほろ苦さがお酒にぴったりです。
万願寺や伏見など地のとうがらしが、スーパーにドサッと並び始めると夏の到来。まずはシンプルに網焼きして酒の肴に。じゃこやかつおぶしと炒り煮にした常備菜も重宝します。
この時季は、にしんなすが出会いもん。旬野菜のなすと干しにしんの炊き合わせです。キリッと冷えて味のしみたなすに思わず「ビール!」となります。
10月に「ずいき祭り」というお祭りがあるように、ずいきの煮物は秋の京都ならではのおばんざい。同じ秋野菜の新小芋とも炊き合わせます。
ホクホクのかぼちゃを炊いて、ちょっとずつ食べるのも私の楽しみ。京育ちの祖母が「おかぼさんの炊いたん」と呼んでいた料理です。
冬の出会いもんといえば、いもぼう(京野菜のえびいもと棒鱈を炊いたもの)やぶり大根が定番。
こういった煮物は手間がかかるので、もう少し手軽に京野菜を楽しむのが私流。水菜をサラダにしたり、青ねぎを鍋にどっさり入れたり。鍋といえば、近所のお豆腐屋さんの豆乳で作る豆乳チゲも大好物です。
これまで掲載した「おつまみ道場」レシピの中から、
今回のテーマ「京のおばんざい 〜カンタン家呑み風〜」とも通じる料理を高谷先生に選んでもらいました。